アトリエの恋
最初のものよりも派手なスターマインが打ち上げられて歓声と拍手の音が大きくなる。打ち上げの密度が増すとそれに比例して観衆の興奮が増して行く。
単発の花火は七号玉になったようだ。夜空の「ニコちゃん」マークやハート型が膨大な数の笑顔と笑いを誘う。
「可愛い!」
そんな声がたくさん聞こえる。何十万もの笑顔で、広い会場が埋め尽くされている。
また更に大仕掛けのスターマインが観衆の興奮をエスカレートさせる。
しかし、座れる場所を探しているらしい人たちが、まだ何人も歩いていた。それに気付いた阿坂は、さやかに云った。
「何とか座らせてあげたいね。座っている人も迷惑に感じてるだろうし……」
「始まってからもう、随分時間が経ってるわ」
「年に一度しか来れない人もいるだろうし、やっと仕事を切り上げてきた花火ファンもいるだろうからね」
「思い通りにならないことはたくさんあるわ」
「まあ、そういうことだけどね」
「あっ!凄く大きな花火よ!」
「来た!尺玉だ!」
空一杯に美しい花火が広がった。腹にずしんと来る重低音が轟いて木霊した。金色の無数の星のような輝きがゆっくりと雨のように海に降り注ぎながら消えて行った。