アトリエの恋
何度めかにそう云ってくれたのは、七十代前半と思われる人の良さそうな老人だった。
近くに同年配の妻らしき女性と、その孫と思われる二人の子供たち。
「いいんですか?二人ですよ」
「どうぞ、どうぞ。私の土地じゃありませんけどね」
そう云って老人は笑った。
阿坂は呆気にとられていた。さやかに好感を抱かない人間のほうが珍しい。そういうことになるようである。レジャーシートは不要だった。
「ありがとうございます」
声を合わせるように二人で礼を云ってから、方角的には西の外れに腰をおろした。最終的に最も良いと思われる場所に座らせてもらった。海面が見える場所だった。
「暑いですね。おやっ、雨の予報でしたか?」
「西陽を避けるために持ってきました」
阿坂はそう云って特大の黒いこうもり傘を開いた。老人も日陰に入ることになった。
「ありがたいなぁ。花火見物のプロですね!」