アトリエの恋
「ねえ、どうして逆方向へ行くの?」
さやかは珍しく不機嫌な顔になった。
「妻は夫に従うことになってるの」
大渋滞の道路を渡り始めた。
「それは昔の話よ。今は男女同権なんだから」
「ああ、あの奥の角を左に曲がって、その先を右に行けばあるよ」
「何が?」
「花火の日も安く買える酒屋」
「何だ、そういうことね」
道路を渡りおえた。
「花火会場の近くだと倍の値段だからね」
駅から五分程度歩いただけでその店に辿り着いた。事情を知っている人たちがかなり詰め掛けていたが、下手なディスカウントスーパーより安く、いろいろと買い込むことができた。
「よくできた夫だと、思ったんじゃない?」
「うーん。まあ、そういうことにしておくわ」
「ところで、山登りの話もあったね」
「そうそう。わたし、高い山に登ってみたいわ」
「じゃあ、来週の土曜日にでもどうかな」