アトリエの恋
「そうだといいけど、どうなのかしらね」
「あとでじっくり読ませてもらうね。ありがとうございます」
「こちらこそありがとう」
バスの窓からは、出張していた地域とは明らかに異なる雰囲気の、懐かしい風景が見えている。川を渡ると、区役所や郵便局の建物が見えてきた。街路樹や歩道橋、広告類を見ても、更に懐かしいような気持ちになっていた。
「ねえ、今日はこれからどうするの?」
「久しぶりに逢えたからね、二人で愉しめるところへ行きたいね」
「会社には行かなくていいのね?」
「今日は行かなくていいことになってるよ。どこか行きたいところはある?」
「花火大会はどうかしら」
「今日?そうか。そんな季節になっていたんだね。よし。行ってみよう」
バスが終点の駅前に到着した。その気になって見ると、浴衣姿の女性が目立っていた。
さやかは浴衣に着替えてから、また出てくることになった。それぞれの住まいへ戻るため、二人は駅前でまた路線バスに乗った。阿坂は荷物の中から土産物を出してさやかに渡した。そのバスから先に下りたのは阿坂だった。バスの中と外で二人は手を振り合った。
阿坂は誰もいない家に帰ると紺色の浴衣に着替えた。さやかにはそのことを云わなかった。彼は釣り用のクーラーボックスとレジャーシートを持って出かけ、バス停からさやかに電話した。