アトリエの恋
「あのひとなら名画にしただろうな」
「特別に浩樹さんだけに描いてもらおうかしら」
「どこで?」
「わたしの部屋で」
「ご家族が許さないでしょう。想像しただけで鼻血が出そうになってきた」
ウフフと、さやかは色っぽく笑った。
「その笑いかたがね、実にそそるのですよ」
「だめよ。わたしたちはいつまでも清く正しく生きて行きましょうね」
「お預けを食らった犬の気分だね」
「そうだ。売れなかった詩集を持って来たの。読んでくださいますか?」
「お値段はどのくらいですか?一万円以内でお願いしたいんですが」
「特別に無料で差し上げます。気に入ってくれたら嬉しいわ」
バッグから出したそれは市販の書籍と変わらない体裁だった。
「出版したんですか?」
さやかは悪戯っぽい笑顔になった。
「製本の仕方を習ったの。浩樹さんの画集も、作ってあげようかな」
「そうなんだ。人は見かけによらないねえ。判った!高そうに見えるから売れなかったんだ」