アトリエの恋
二人の身長の差は、ちょうど二十センチくらいだろうか。五箇月近くも逢えなかったのに、逢ってみるとそんな気がしなかった。極端な話、昨夜食事を共にしたような気さえする。昼も夜もピアノの演奏を聴いたあの日の印象が強烈だったからだろう。
午後三時過ぎの屋外は暑かった。二人は冷房が強めの路線バスに乗った。その中でさやかは泣いた。阿坂はさやかの肩を抱いた。
地方の工場で責任者が急性の病に倒れ、呆気なく他界した。その穴埋めに、阿坂が臨時の管理者として、急きょ派遣されたのだった。阿坂が出張を命じられたのは、三月の初頭のことだった。地元の人たちは温かくなったと喜んでいたが、雪国はまだ寒い日が続いていた。
その頃は地面に掘った穴で、朝六時にゴミを燃やすときの炎の温かさが、阿坂には救いだった。そして、正午と夜間の、さやかとの通話が心の糧となっていた。
「チャイニーズドレスって、かなりセクシーな感じだね。三週間だったね、モデルになったのは」
「やきもきしてたでしょ。みんな一所懸命だったわ」
さやかはまだ紅い眼をしている。
「鼻血出したひとがいたんじゃない?」
「浩樹さんがそうなったときを想像して笑っちゃったの。そうしたら村田さんに叱られちゃった」