アトリエの恋
第8章 チャイニーズドレス
飛行機の速さは人間の心を無視するものだと、阿坂は思っていた。幾ら急いでも人生の長さそのものは変わらない。しかし、速く過ぎ去って欲しい時間と、もっと長くあって欲しい時間は、いつも逆なのだった。
着陸した飛行機は逆噴射によるきつい減速をかけた。ひどい振動を乱暴なものに感じながら、阿坂は大事故に巻き込まれそうな恐怖を覚えた。
空港内をゆっくりと移動する機内でも、まだ耳の痛みが残っていた。漸く完全に停止して案内放送を聞きながらベルトを外し、上の棚から手荷物を取り出した彼は、間もなくさやかに逢えるのだと思うと、急に嬉しい気持ちが襲い掛かって来た。
広大な空港の建物の中の雑踏を歩いてバス乗り場へ向かっていると、急に左の腕を誰かに掴まれて驚いた。
さやかだった。笑っていた。阿坂も笑った。
「お帰りなさい。なんだか少し背が伸びたみたいね」
「この瞬間が待ち遠しくて首が伸びたんだね」