アトリエの恋
こんなに美しい女性だったのかと、感心させるほどのさやかの頬笑みが、阿坂の心を溶かしていた。ピアノ演奏も、「ミスティ」、「枯葉」「サマータイム」、といった名曲たちを極めて洗練されたセンスで料理して行った。
そして最後に「スターダスト」が抒情的に謳われた。
そのあとのデザートには困らされた。ワゴンに並べられてきた何十種類ものそれらは、
どれも魅力的で美しく、他を棄ててひとつを選ぶことは苦痛に近いものがあった。
最後にコーヒーを飲んでいると、
「ここの裏側に続く坂道を行くと、星空がきれいよ」
さやかの清楚な美しさが一段と感じられた。
「暗くなるまでこの辺を歩いたことないなぁ。百三十七億光年のかなたを、眺めてみようか」
*
キリスト教会の横の急な坂道を上って行くと、曲がりくねった住宅地の中の道になった。急に住宅の玄関付近の防犯灯がついて、明るく照らされることが何度もある。犬が吠え始めるとうるさかったが、それがなければ静かだった。咲いている梅の花を見ると、
もう本当に春がすぐ傍まで来ているのだと思う。