アトリエの恋
「偉いわね。じゃあ、なにか御褒美をあげないとね」
そのとき、若い男のピアニストが演奏を始めた。
「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」だった。ジャズっぽいアレンジで巧みな演奏だった。
最高のワインが心を酔わせ、最適な音楽が心を和ませている。そして、最愛の女性が
優しいまなざしを向けてくれていた。オニオングラタンスープから始まった料理は馴染みの薄いものばかりだったが、その味わいも阿坂の心を惹きつけるものだった。
「また来たくなるわよ。絶対」
さやかは極上の微笑を阿坂に向けた。手長海老、仔羊、スズキ、フォアグラ、といった食材を、充分に修業を積んだ料理人たちが、芸術的ともいえる程の、最高の料理に仕立てていた。
「ねえ、満足したって、云ってくださいね」
「うーん。満足し過ぎたよ。至福のときだね」