アトリエの恋
買ったばかりの絵具は、さやかのバッグに入っていた。
阿坂が絵具箱を持っていた理由は、明日の制作の準備として足りない絵具を確認しておくべきだったことに気付くのが遅かったからである。昨夜のうちに見ておけばよかったのだが、気付いたのは今朝なのだった。それで今日の昼休みに勤め先で確認したところ、
カドミウム・レッドが殆ど使い切った状態だったことが判明したのだった。同じ色のものばかり買ってしまうことは避けたいと思った。今日の昼休みに見たときは、セルリアンブルーが三本も入っていた。
さやかが通っている教室は五つ目の駅から歩いて五分だということだった。
「いつから通っているんですか?」
「今年からです」
「今年の正月からだとすれば、十箇月ですか」
さやかの木製の絵具箱はたった今買って来たばかりのように明るい色のものである。
それとは対照的に阿坂のものは古びてこげ茶色になっていた。
「ええ、そうです。あなたの絵具箱はどのくらい前に買ったものですか?」
「推定五十年前です。姉からもらったものです。姉も誰かからもらったと、云っていました」