アトリエの恋
「今から私もその教室へ行きましょう。本でも読みながら待っていますよ」
実を云うと阿坂は、そのとき、その娘がかなり魅力的であることに気付いたのだった。小柄だが、全体のバランスは悪くない。当然小顔で眼が大きく、可愛い顔をしている。とりわけ肌の美しさは奇跡的と云える程である。推定年齢は二十三歳くらい。当たっていれば阿坂より三つ年下ということになる。教室の様子も見たいと思った。
娘は左手首の時計を見た。
「わかりました。その条件で交渉成立ということにしましょう」
彼女は仏頂面で云った。
「そうですか。私は阿坂浩樹です。よろしく」
「わたしは村上さやかです。時間がないので、急いでください」
と、云いながらバッグから財布を取り出して五百円硬貨を一枚、阿坂に手渡した。その手も可愛いと、阿坂は思った。
エレベーターで三階に下りると、券売機の前まで急いで行った。料金額を教えられて阿坂は慌てて切符を買い、夥しい人々の流れを縫って自動改札まで走った。そこから更に二人で走って階段を駆け下りた。発車寸前の電車に飛び乗った二人は、間近に互いの眼を凝視め合って微笑んだ。朝のラッシュほどではないが、電車の中は混んでいた。二人共、絵具箱を持っている。