アトリエの恋
そこはホテルの上階にあるレストランだった。
「だから、スーツを着て来いって、云われたんだね」
「そのほうが入り易いと思ったの。こう云う所は嫌い?」
「そんなことはないよ。さやかさんと一緒なら、どんなところへも行くよ」
照明が落とされていて、窓の外の港の夜景がきれいだった。既に何組かの先客たちの姿が見えた。外国人ばかりだった。グランドピアノが中央に置かれていた。ワインと食事を注文すると、従業員の年配の男が深々と頭を下げた。
「コンサートでは、さやかさんのお世話になったからね、ここの支払いは任せてくださいよ」
テーブルのキャンドルを凝視めながら云った。
「いいの?大丈夫かな?」
「こんなこともあるだろうと思ってね、年末のボーナスを極力使わないようにしていたんだ」