アトリエの恋
「最初にここに来たのはいつだったの?」
「高校生だったな。本当は拙いことだけど、何度も何度も塗りつぶした重いキャンバスに描いていたよ」
「どうしてそんなことを?」
「キャンバスを買うお金がなかったからね。あの四十号も同じだよ。進歩ないね」
「あれもそうなの?塗りつぶすのに絵具代が掛かるでしょう」
「安い絵具を探してね、太くて長いチューブに入ってるんだ」
「そうなの……ねえ、おなかすいたでしょ。この近くにピアノを聴きながらお食事できるところ知ってるのよ」
「そう?じゃあ、行ってみるか」
「歩いて十五分くらいね。大丈夫?」
「近いよ。大体ね、風景画は足で描け、なんて云われてるんだ。何時間も、さんざん歩きまわってから納得できるモチーフを探し当てる。それが、風景画の基本だね」
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