アトリエの恋
第7章 スターダスト
ちょうど日没の時刻に、阿坂が十回以上も絵を描きに来たことのあるその場所に着いた。運河にはタグボートや達磨船が浮かんで揺れている。もうすぐ三月だが、それにしても温かい陽気である。倉庫の向こうで見えない大型船が汽笛を鳴らすと、
遥か遠くまで木霊してその余韻が広がった。
「実際の景色もいいけど、絵のほうがもっとすてきだったわ。あなたは何度もここに描きに来て、ここで風に吹かれていたのね」
「真夏の夕暮れには花火が見えたよ。ここからね」
「寂しかったでしょう」
小さな波が時折可愛らしい音をたてた。
「見られたのかな?ここで寂しがっていたのを……」
「絵筆を持ったまま、独りで泣いてたのよね」
さやかはまた阿坂と手を繋いだ。
「まさか、泣くわけないよ。ただ寂しいなって、
思っていただけ」