アトリエの恋
第6章 コンサート
日曜日の午後に二人で歩くのは、初めてのことだった。二人とも微笑んでいる。
以前から阿坂はさやかと手を繋いで歩きたいと思っていた。今がその好機なのだが、それを提案することができない。
「おいしかった?」
「ええ。おいしかったわ」
「少し味が濃い目だけど、たまにはあんなのもいいよね」
「ちょっとない味よね。相当に工夫しているのね」
「麺もいいんだ。本物の手打ちなんだって」
「また行きましょうね」
「また、いつか……」
阿坂が気に入っているラーメン屋に寄って来たところだった。二十分あまり行列に並んでも、待つ甲斐のある味だと、今日も思った。さやかがおいしいと云ったので、何よりもそのことに阿坂は満足した。
「あっ!また行列よ」
コンサートホールの前に長い人の列ができていた。そこでは間もなく、或る一流のピアニストの、リサイタルが始まろうとしていた。
「でも、もう開場の時間だね」
「ええ。ちょうどそうね。動きだした」
「岡野さんを騙してしまったね」