アトリエの恋
「ありがとう。いつも悪いね」と、笑顔の阿坂が受け取った。
「結構大きい箱だけど、俺たちの分も入ってるのかな?」
牛島が訊いた。
「会長も食べてください。朝から来てるんでしょ」
細身の南綾子は眼鏡に手を添えて云った。彼女は中学校の教諭である。
「島崎さんの山の絵、なかなかいいわね」
そう云った竹内良子は幾分太めの看護師だった。
「あなたがたはどうするんですか?」と、牛島。
「わたしたちはこれからイタリアンバイキングよ。じゃあね」
笑顔の三人は行ってしまった。残った三人は早速箱を開けて食べ始めた。
「今度、裸婦のモデルを呼びたいんだけど、どうかな?」と牛島。
「いいね、いいね。なるべく若いモデルがいいね。この前描きに行ったところは、二十歳くらいの女子大生。でも、良過ぎると描く暇ないけどね」と、島崎。
「何をしに行ったんですか。場所を間違えちゃ駄目ですよ」
阿坂がそう云ったとき、また三枝子が呼びに来た。
「今度は可愛いひとですよ。ちょっと妬けるかな」
三枝子はやや不機嫌な表情だった。
「ああ、済みません。妹ですよ、多分ね」
行ってみると受付の前にいたのは、やはり、さやかだった。
「こんにちは。お久し振りです」
さやかは緊張しているようである。展示室にはほかに数人が訪れていた。