アトリエの恋
「何?阿坂さん、ほかでも彼女つくったの?二股はやばいんじゃないの」
そう云ったのは市場でアルバイトをしながら絵を描いている島崎という男だ。
「岡野さんは彼女なんかじゃないよ。嫌いじゃないけどね」
阿坂はむきになって云った。
「彼女が嫌いだなんて云う奴は相当のへそ曲がりだよ。あれだけの美女は滅多にいないからねぇ」と、牛島。
確かに岡野三枝子は飛びぬけて美貌の持ち主だった。彼女のほうが阿坂に惚れこんでいるらしいという噂は、以前から耳にしていた。だが、なぜか阿坂の心の中で彼女の存在が
大きくなることはなかった。