アトリエの恋
第5章 作品展
そこは都心に近い場所に建つ大きなビルの、地下にある画廊だった。絵画サークル「アトリエ I」の作品展は昨日の土曜日から始まっていた。阿坂の出品作は今回は一点だけだが、六号から十号までの作品が五十点も並ぶ中で、彼の四十号の風景画はひときわ目立っていた。夕暮れ時の港の様子を描いたその絵は、昨年の夏から七箇月もの間、悩みながら描いて来たものだった。
朝から会場に来ていた彼は、まだ納得できない部分もあるその絵から離れたかった。
見る度に手を加えたくなるからだった。もうすぐ正午になる今も、控室で二人のメンバーを相手に阿坂は話をしていた。
「阿坂さん。絵画教室の彼女とはうまく行ってるの?」
最古参のメンバーでサークルの会長の牛島とは、ときどき二人で居酒屋へ行く仲だった。
「えっ?それは内緒。今度話すから、ここでは黙ってて」