アトリエの恋
「そんなに目立ちません……助かってよかった」
「傷ものだから、幸せにはなれないって、思ってるの」
「駄目ですよ。幸せになろうって思ってください」
阿坂は真剣な顔になった。
「そうよね。マイナス思考は駄目よね」
「そうです。さやかさんはきれいなひとです。プラス思考で、ポジティブな生き方をしましょう。明日からはそれで頑張ること。命令です」
「命令ね。解りました。頑張ります」
さやかは笑顔を取り戻した。
「約束してください。愚痴は厳禁です」
「ええ、じゃあ、ゆびきり」
「はい。約束」
笑顔の二人が、指切りをした。そのときもう一度、競馬場に明かりがついた。その奥に、石油コンビナートの煙突の炎が見えた。上空の雲が紅く染まっていた。阿坂の心にも新しい炎が燃え始めていた。