アトリエの恋
「欲しかったのよ、これ。またまた見直しちゃったな。浩樹さん」
「来年の夏までに、さやかさんをゲットしたいなぁ、なんて、虫のいいことを考えてしまったわけ」
「そうなんだぁ。来年の夏ね。可能性はあるかもよ」
さやかは嬉しくてたまらない、といった様子だ。彼女はもう一度、阿坂の手を握った。
「ところで、さっき向こうの方に光ってるところがあったでしょう。あれは野球場?」
「あれは競馬場です。遠くから見ると楕円形の宝石のように見えるけど、近づくと危険な場所です。八百長ばかりだという噂です」
「わたしの父も昔はやってたみたいだけど、最近はやめたみたい」
「そうですか……ご両親は健在?」
さやかの表情が曇った。
「母は十五年前に亡くなったの。姉が居るから、三人家族よ」
「余計なこと尋いてごめんなさい」
「……わたしが小学生だったとき、家族四人でドライブに出かけてね、正面衝突されたの。
そのとき運転していたのが母だったのよ」
「さやかさんも怪我をしたんですか?」
さやかは自分の額を指差した。
「ここに傷跡があるの。気付かなかった?」
よく見るとそれが判った。