アトリエの恋
二十一階に到着した。エレベーターの外にいた案内係りの男は、テーブルの前が床から天井までガラス張りの、夜景を眺められる席に阿坂たちを案内した。ガラス製のテーブルなので視界は良好過ぎるくらいだ。少し怖いような気もした。両側には別のカップルたちがいて、寄り添いながら囁き合っていた。
「最高のイブだわ。こんなの初めてよ」
さやかは眼を潤ませている。
「奇跡としか云えないでしょうね。神様に感謝したいくらいですね。今だけ無神論者をやめます」
二人で一本のワインを飲むことにした。そして料理も、間もなく注文した。
「もう一度、メリークリスマス」
ワイングラスを触れ合わせて乾杯した。そのあと、阿坂はさやかの肩に腕をまわして抱き寄せるようにした。
「もう、浩樹さんの罠から逃げられないね」
そう云ってさやかは眼を細めた。
「そのことば、そっくりお返ししますよ」
阿坂は微笑んでいた。さやかは驚きを隠さなかった。
「わたしが罠を仕掛けたということ?」
「そうじゃないですか!この二箇月近くの間、ずっと切ない想いをしてました。さやかさんが口もきいてくれなかったから」
「……だって、真っ先に絵の描きかたをわたしに教えてくれると思っていたのに、仲間はずれにされていたのよ……辛かったわ」
さやかのまぶたから、涙が溢れそうになっている。