アトリエの恋
第4章 楕円形の宝石
駅の構内は人通りが多いので、人とぶつかって落とすのではないかと、阿坂は心配している。彼も紺色のダウンジャケットを着ていた。
「寒いですね。早くあったかいところに行きたいな」
紺色のコートのさやかは、阿坂から受け取った小さな箱を大事そうに両手で持っている。
下りのエスカレーターの左端にさやかが立ち、その後ろに阿坂が続いた。
「どこかいいところありますか?」
さやかが首をまわして背後を見上げながら尋いた。
「イブで金曜日だから、どこも混んでいるでしょうね。駅の近くですね?」
「遠いと時間がなくなりますからね」
「駅ビルの左隣に大きなビルがあるでしょう。二十一階に居酒屋があるんですけど、
カウンターみたいな席なら大丈夫かも知れませんよ」
「そんな上の方にあるんですか」
「ガラス張りのエレベーターだから、駄目でも夜景を眺めに行ったと思えばいいでしょう」
「すてきね。見直しちゃった」