アトリエの恋
「随分たくさんあったのね。だから、子供のころは凄―く、愉しかったのね」
「紙芝居屋も来たし、爆弾とかも来ました」
「ポン煎餅、粘土屋、ちんちん飴」
「今の子供たちはテレビゲームと、アニメだけですよね」
「どっちにしようかな、の続きは?」と、阿坂。
「天の神様のいうとおり」
「地方や世代によって、頭に『天の』をつけるところと、つけないところがあるそうです。ラジオで、そのあとのいろいろな云いまわしも云ってました」
「面白いわね。こどもたちの文化。あっ!もう着いちゃった」
電車が終点に到着し、気が付くと車内に残っていたのは阿坂とさやかだけだった。
「そうかぁ。でも、愉しかった。ありがとう」
慌てて電車から下りた。並んで歩いていると、肩が触れ合った。二人は微笑していた。
「プレゼントのお返しをしないと」
「いいんです。気にしないでください」
「駄目よ。眠れなくなっちゃう……おなかすいてませんか?」
さやかは雑踏の中で立ち止った。そして見上げた。
阿坂はそのきれいな眼を、もう少しの間見ていたいと思った。
「まだ、九時台ですね」
改札の向こうの時計台を見ながら、笑顔で云った。