アトリエの恋
「あれ、あれ。酔う前から泣きじょうごかい」
武井が笑顔で云った。
木島さんが話し始めた。
「阿坂さん。ここの先生、梅田創太画伯はね、世界的に有名な抽象画家なんです。ニューヨークで何十回も個展をやってる偉いかたですからね、どんどん質問してその芸術性と独創性の輝きを盗み取ってくださいよ」
「大げさですよ木島さん。私はね、この世で最高の芸術家は子供たちだと思っているんです。子供たちの絵を真似して描いていたら、いつの間にか海外で認めてもらえるようになったんです。それだけのことなんですよ」
阿坂は驚いていた。そして、嬉しいのだった。全く想像もしていなかった空間がここにはあった。世間というものは、知れば知る程奥深いものなのだと改めて考えさせられていた。
「阿坂さん。いいひとね。絵具がひとつしかなくて良かったね」
「そうですよ。二つ以上あったらここには来なかったわけですからね」
と、阿坂は心からそう思って云った。
「やっぱり、この二人の間には強力な何かを感じるなぁ」
樫村が笑いながら云った。
梅田創太が突然阿波踊りを始めた。樫村も立ち上がった。武井と木島さんも一緒に踊り始めた