アトリエの恋
「そうか。ここだったんですね。噂のアトリエ居酒屋っていうのは!」
阿坂がそういうと大爆笑になった。
「参った、参った。看板を掛け直すか」
*
八時二十分で制作の時間は終了し、椅子やイーゼルが片づけられ、樫村、村田などによって、長い座卓が中央に置かれた。その上に木島さん、河合さん、そしてさやかなどの手で、日本酒の一升瓶が一本と、幾つもの湯のみが並べられた。さやかたちは奥へ行った。やがて、するめを焼くにおいが漂ってきた。帰る人は一人もいない。するめの皿が出されて間もなく全員が座卓を囲んだ。
「今日は特別に新人の阿坂浩樹さんの歓迎会といたします」
「毎週歓迎会です」
またまた大爆笑になった。云ったのは最長老の村田だった。全員の前に酒の入った湯のみが置かれ、村田の音頭で乾杯をした。
「阿坂さん。最初から、随分上手ね」
笑顔で云ったのは河合さんだった。
「教室のレベルが上がりそうです」と、村田。
少し飲んだだけで阿坂は胸がいっぱいになり、まぶたから急に涙が溢れ出した。隣のさやかもつられて涙をこぼした。
「何だ、何だ。この二人怪しいんでないかい」
そう云ったのは樫村だ。
「済みません。こういう温かい雰囲気の場所に出遭ったことがなくて、感激してしまいました」