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悪魔の証明

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しかし、仮に本当にずっと考えさせてしまったというなら、それは申し訳のないことだった。
おそらくそれはつらい時間だったはずだ。
それを俺は自分のためにMに強いたのだ。
そこからくる罪悪感から、彼女に謝罪と感謝の気持ちを伝えた。
これで俺はMと別れた。
別れたというよりフラれたとでも表記したい。

「これからは友達としてよろしく。気まずくなるのは嫌だから。」
おそらく、Mと友達として付き合っていくのは、無理だろう。
しかし、俺はわずかな希望を託して、それに了解した。

 mixiとは別にMは自分のブログを持っていた。
俺は付き合っている時一度も見たことはないが、なぜか今になってみてみる気になった。
すると、あの数日の間の投稿がほとんどなかった。
ただ、一件だけあった。
「ここ数日誰にもメールを返していないし、誰にも会っていません。メールが返ってこなくて心配してくれる方々もいますが、とりあえず私は大丈夫です。本当にごめんなさい。」

この投稿を見ていたら、俺はもう少しあの数日間、愉快に過ごせただろう。
なぜ、このような大事なことを俺に言わなかったのだろうか。
なぜ、俺が見もしないブログに書くのだろうか。
こんなときもMは俺に対して不親切だった。
あの期間、俺は少なくともMを心配する思いで不快だった。
俺は悔しかった。
ただ悔しかった。

 この日から俺はMに対して恋心ではなく、一種の復讐心を持つようになった。
復讐と言ってもMを殺めるとかという話ではない。
一番近い感情は、「彼氏にフラれた女性が彼を見返すために芸能界に入る」人の感情だ。
とにかくMに後悔させなくてはならなかった。

つまり、俺はMにフラれた時点で俺はMの下に属することになったのだ。
カーストの中で、俺は卑しい身分に落ちてしまったのだ。
恋愛とはマッチングではなく、カーストだった。
俺はそのカーストのなかでどうやって昇進していくか考えなければならなかった。
最初に思いついたのは勉強してMを見返すことだった。

俺はとにかくMを見返すために勉強した。
幸い俺がしなければいけなかった勉強と復讐のための勉強は一致した(勉強すれば社会から認められるようになるのだ。一例として法学である。)。
これは将来社会的地位をあげることでMを見返すものではなかった。
勉強していることで、将来の片鱗を見せつけることでよかった。
つまり、俺が図書館で猛勉強をしている姿をMが見て、彼女は俺に話しかけるが、俺はそれに目もくれなければよかった。
とくに目もくれないことが重要だった。
俺はMには興味がないことを示すことで、カーストから脱することができた。
Mは俺をフッたことで俺の中に女としての関心を見出さないことを表現した。
だから俺はこの行為によってMの中に男としての関心以前に人としての関心を失ったことを表現したかった。

この行為によってMをもう一度俺に振り向かせようとしたわけではないことは。言うまでもない。

これは至極まっとうな動機で、おそらく俺に有益なものだった。
このモチベーションを維持することで俺は成長することができたのだ。
なぜそこまで必死に勉強するのかと聞かれた時に、本心を言わない限り俺はまじめな優等生であり続けられた。

しかし、しばらくこれを続けていると、Mは俺が勉強していようがしまいが関係はない上に、勉強していることが素晴らしいとは思っていなかった。
つまり俺が図書館で猛勉強していようが、Mは俺の将来の片鱗を伺って、声をかけてくることはありえなかった(そもそもMは図書館に来るような人間ではなかった。)。
寧ろ、Mにフラれたから勉強に逃げたと思われる可能性があった。

いまよく考えてみると、この動機は俺の成長を促しはしたが、復讐するのはあまりにも陳腐だった。
こんなことで復讐しようと思っていた俺が恥ずかしかった。
勉強の方法は漫画や安い青春物語にはありがちなパターンで、思えば進研ゼミの勧誘の中に入っている漫画にすら登場するレベルだった。

だからといってどのような方法で復讐すればよいのかわからなかった。
 
 しばらく時間がたつと考え方も変わってきた。
俺は復讐よりもMを記憶から消去したいような気がした。
思えば、勉強で復讐すると考えたとき、俺は自らMとの交流を断絶しようと考えた。
とにかくMには消えてもらいたかったのだ。

しかし実際学校でMとすれ違うことはなかった(Mとはサークルは同じだったが、Mはすでにあまり来なくなっていた。コミュニティが多いMには自然なことだ。)。
大学というのは広いところで、とても人数が多い。
それ故、この大学に在籍しながらもMと接触を避けることは難しくはなかった。

この状況が俺の復讐心を穏やかにしていった。
いつの日か、Mが自然と俺のカーストいや眼中から脱していった。
これで俺は平穏な日々を送れることになると思った。
Mへの復讐で大学生活の多くを費やすのは勿体ないと思った。

俺の生活は平穏になった。
毎日特に記述すべきことがない日々が続いた。
これが高校生の時に憧れていた大学生かと思うと笑えてきたが、俺には満足だった。
復讐とか考えていたころよりも性格が丸くなった。
思想自体が丸くなった。
既に季節は秋になりかけていたが、枯れた葉が自然と地面に落ちていくように、俺は何にも対抗せず、自然に生きていた。
秋空を飛んでいくカラスが自由に見えた。
空を見る余裕が俺には生まれていた。

 それから俺はよく空を見るようになった。
それは無益な行動だという批判はあるかもしれないが、俺はそれをすべて聞き流すことができた。
時間がゆっくりと過ぎていった。
こうやって見ると空というのは面白い。
案外近い存在だ。
しかし飛行機に乗った経験から思い起こすと、あの雲はそれだけ遠くにあるし、あのハイテクな飛行機すらあそこの少し上しか飛べないのだった。
空を眺めるのは実に愉快だった。
とくに空が美しいとは感じなかったが、俺はなんとなくこのまま自然に無くなっていきたかった。
自殺をする人は皆苦悩でいっぱいなのだと思っていた。
消えたいと言いながら消えていった人は、もちろん苦悩でいっぱいの人も居ただろう。
しかし中には今の俺のように幸せに消えていった人も居たのかもしれない。
空を見ながら一日をつぶす。
昔の俺が見たらなんと言うだろうか。
「キラキラしちゃって気持ち悪い」
こんなことを言ったかもしれない。

ある日、なぜか今見ている雲の画像を写真に撮ろうと思った。
そしてそれを共有したくなった。
実際こんな写真をみて誰が喜ぶのかと思った。
しかし自己満足でもいいから写真を共有してみたかった。
ここでもmixiが役に立った。
サイト内のサークルにひたすら空の画像を張り続ける物好きなサークルがあった。
俺はそのサークルで写真を更新していった。

そこのサークルのなかにいる人々がなぜ写真を撮り続けているのかわからなかった。
思えば俺もなぜ撮り続けるのかわからなかった。
しかし、同機はもはや俺の関心ではなかった。
とにかくそれが俺に生きる糧を与えた。
それが楽しかったのではない、愉快だったのでもない。
写真も好きではなかった。
自然にそうなった。
作品名:悪魔の証明 作家名:ダストボックス