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悪魔の証明

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時間というものは作る気になればいくらでも作れるものだが、俺はあえて忙しい自分を演じた。
こうすれば、彼女も理解してくれるだろうと思った。
彼女は俺の良い理解者だと思っていた。

 ある日、そんな状況の中で、Mがメールをくれた。
「今度の土曜日でも近くの公園でもお散歩しない?最近すごい天気がいいじゃん!」
確かに最近は暖かいが、風も適度にあってとても過ごしやすかった。
こんななかで散歩をしたら恐らく気持ちがいいだろう。
さらに最近彼女と遊んでいなかったから、罪滅ぼしではないが、たまにはいいかなと思った。

散歩の日は予想通り、天気がよく俺は気分がよかった。
天気の良い日に二人で散歩をするのはとても気持ちが良かった。
俺らのほかには中のよさそうな老夫婦が同様に散歩をしていた。
俺は彼女との関係があの老夫婦のように円熟したものになったことを確信した。
老夫婦のような関係は理想なんかではなく、もう手中に収めていたも同然だった。
深くて長い関係を得たと満足だった。

 それから数日はとくに変化がない日が続いた。
自分では安定期だと考えた。
何もないことが幸せなのだという、あまりにも稚拙な結論を信じた。
あの老夫婦は毎日とくに何もないのだろう。
ゆえにあのような穏やかな顔をしていたのだと了解した。

彼女からもいつも通りメールが届いた。
それはここに記すほど中身があるものでもなく、恐らく俺ら以外の人間が見たらくだらないと一蹴されるかもしれなかった。
彼女はこうして時折意味のないメールを送ってきたりしてきた。
確かにそれは意味のないものだった。
時間の無駄だということも言われたことがあるが、それも納得できる。
しかし、果たして自分の愉快さを求めることは意味のない愚行なのだろうか!
そもそも意味があることはそんなに偉いことなのか!

とにかく、俺はそういう時間が好きだったのだろう。
試験の勉強があるのだが、快楽を求める自分がいた。

俺はそのメールにすぐとはいかないでも、早めに返信した。
勿論、それも中身がない内容だ。
あとから見直すと赤面するような。

しかし、なかなか返信が来ない。
とはいえ、このような事態は特筆することではなかった。
彼女も俺もメールを送って、相手の返信が来る前に寝落ちしていることがしばしばあった。
それで次の日、起きてみると返信をしていないことに気が付き、いつものように謝る。
どちらもお互い様で、特にそれがいざこざに発展することはなかった。

俺はその日もそうなのだと思い、特に気に留めなかった。(何回か送信メールを確認して、自分が返信しているか確認したのは、自分はそういうミスが多かったからである。あとは早く返信が欲しいというような甘酸っぱい感情もあったのかもしれない。)


 しかし事態はどうやら異常のようだ。
それから数日しても全く返信が来ない。
さすがに俺も色々考えた。
単純に携帯が壊れたということも考えられた。
または不幸な目にあったとか。
俺に嫌気がさして、音沙汰がなくなったということも考えたが、その場合、メールを自分からしてきて急に返信しなくなるというのはあまりにも不自然だった。
ましてや、嫌気がさすことをした覚えはない。
いや、返信の内容がまずかったのか。

いずれにせよ、心配なのでメールを送ってみた。
しかしそれも返ってこない。
このようなことは初めてだった。
しかし俺にはもうなにもすることはなかった。
電話をかけようかと思ったが、メールが返ってこないのに電話に出られるはずがなかった。
色々心配だったが、とにかくMが無事であることを願った。
しかしそれでも全く返信がなかった。

 それから数日してやっとMから返信がきた。
俺はとにかく安心した。
すくなくとも彼女は生きていたようだ。
「今時間ある?ちょっと話したいことがあって。」
普段メールしてくるときは、俺が忙しいかどうか気にしないのに、重要な話の際はなんでこうやって気にかけてくるのだろうか。

とにかく、生きていてよかったという答えをだした。
なにがあったか知らないが大丈夫かと聞いた。

するとMは
「そういってくれると思った。いつも心配してくれてるのにね。」
「ほんと、いつもいい人だよね。」

あまり意味が分からなかった。
とにかく論理的構造が見いだせなかった。
しかし、どうやら相変わらず異常で、所謂病んでいるらしい。

とにかく事情を説明してもらいたかった。
説明をしてくれという返事をしようと思っていたら、彼女からまたメールがきた。
それはとにかく長い文章だった。
この短時間でこれほどの文章ができるということは既に、決意は固いと悟った。
つまり、俺と別れたいということだった。
俺を嫌いなったわけではないが男として好きではなくなったかもしれないという話。
ここ数日はずっとそのことを考えていて具合が悪いという話。
結局はMが悪いという話。

どれも理解できたものではなかった。
結局自分が悪いというのはどういうことなのか。

とにかく俺がすべきことは一つだった。
彼女をつなぎ留めなければならない。
とにかく長い関係を保たねばならない。
これで今まで築いてきたことが失われるのは大きな損失だった。
しかし、できることはもうなかった。

俺はひとまず了解したが、もう数日おいて考えてくれと言った。
その数日もう一度考え直してくれと言った。
その場で「分かった。じゃあね。」と言ったらどれほど彼女を傷つけられただろう。
どれほど威厳を保てただろう。
いかにも自分もそういうことを考えていたのでよい機会だといえば、どれほど保身できただろうか。
しかし、そんなものは俺にとっては大したことではなく、明らかに今後も関係を続けることが重要だった。
おそらくまだ俺はMを愛していた。

とにかくMはまた後日連絡するといった。
俺はひとまず命を繋いだ。
しかしあとになって考えてみると、それは単なる延命行為だと思った。
おそらく彼女の心情は変化しないだろうと予想していた。
わずかな可能性を残したことに満足だった。

それはその後の数日の彼女からの返信がくるまでの俺の行動に表れた。
もはやわずかな希望を願って。ひたすら祈り続けることはしなかった。
それはまさに無駄な行為だと知っていたし、あきらめていた。
それよりも彼女がいなくなったあとの生活を計画していた。
今後の彼女との距離感なども考えた。
今後より愉快に生きられる方法を考えた。

 数日たって、改めてMから返信がきた。
告白した時の返信を待つ。
それが届いて開くまでの気持ちを歌ったキラキラソングとは、異なって俺はなんの躊躇いもなくメールを開いた(それは俺が根性があるとかという問題ではなく、既に結果が見えているからである)。
「ずっと考えていたけど、やっぱり男として見れない。ごめん。」
俺は彼女が本当にずっと考えていたのかは分からない。
たぶん考えても二、三時間だろう(なぜなら例えば損得勘定なら色々な面から考察せねばならぬが、こういう問題の場合少なくとも女性は感覚で答えをだすのだが、自分の感覚を疑うという行為は起きえないからである)。
作品名:悪魔の証明 作家名:ダストボックス