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悪魔の証明

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そういえば依然、俺といるときと、友達の女の子と一緒にいるときどっちが楽しいか意地悪に聞いてみたことがあった。
俺の予想というか願望では、彼女は赤面して俺を選ぶだろうと思っていた。
しかし、回答はどちらかを選ぶことはできないと言っていた。
これには俺も衝撃を受けたが、俺は彼女の楽しみの世界の一部であったことがわかった。

また、彼女はコナンが好きだという話になったとき、俺は勿論冗談でコナンと俺ではどちらが好きかと聞いたこともあった。
今思うととても恥ずべき質問だったが、冗談としては許容できる範囲だった。
だから彼女は答えを濁してもいいし、もちろんコナンだと言って俺をからかってみてもよかった。
しかし、彼女は真剣な顔になって、そのような質問はしないでほしいと言ってきた。
当時の俺にはこの質問の深刻さを理解できなかった。

このあたりから、俺と彼女にはなにか壁があるような気がしていたのは言うまでもない。
その壁というものは実際、俺が勝手に幻想の中につくったものであったが、それは大きく感じられた。
壁と言っても、俺が彼女から冷め始めたという意味ではなくて、俺としてはその壁を越えていきたいがなかなか越えられないというものだ。
つまり、俺の幻想の中に存在しながら、幻想の中で彼女が築き上げたものだった。

しかし、その壁を気にしないほど買い物は楽しかった。
いつもは服は自分で選んで買うのだが、彼女に選んでもらうというのも悪くない。
というのも、女性というものは元来美的センスに恵まれているので、俺が予想もしなかった組み合わせの服を勧めてくる。
俺は疑いながらも試着するわけだが、意外に似合う。

とにかく彼女は俺の幻想の中で壁を築きながら、一方で現実ではその壁を破壊した。
その行為が余計俺を分からないものにさせた。


 買い物にも飽きたので、ゲームセンターに行こうということになった。
単純に俺がUFOキャッチャーで遊びたかっただけなのだが、彼女も楽しそうに来てくれた。
暫く時間をつぶしていると、プリクラの機械を見つけた。
そういえば、まだ彼女とプリクラを撮っていなかった。
どうせやることもないので、プリクラを撮ろうと言ってみると、
「いいよ!いいよ!撮ろう!」
これも快諾。
彼女はプリクラを撮りたかったらしい。

俺はどの機械がいいとか全く分からないので選んでもらおうとしたら、急に彼女が引き返してきた。
「ちょっと、一旦外に出よう?ちょっとやばい。」
よくわからないが、そこまで言うのならと思い、一旦出ることにした。
そして訳を聞いてみると、どうやらそこに彼女の後輩がいたそうだ。
後輩に見られるのが嫌だったということらしい。
ともかく、しばらく時間をおいて、またそこに行き、目的を果たすことに成功した。

しかし、プリクラを撮り終えたらもうやることがなくなった。
かといって、電車の時間までもうすこし時間がある。
そこで、時間までぶらぶらと歩くことに決めた。
すると、またプリクラの機械があった。
俺は冗談でまたプリクラを撮ろうかと言ったのだが、予想に反して、ぜひ撮りたいと言ってきた。
さすがに、俺は驚き本当に撮るのか確認したところどうやら本当らしい。

あとで、言われたことなのだがプリクラというものは一日に何回も使うものらしい。
だから二度目も言われたときはうれしかったと。
それが本当なのかどうかはいまでもよくわからないが、とりあえず彼女も楽しかったようだ。

 帰宅すると、Mがmixiに投稿していた。
しかし、そこに今日の写真などをアップロードするのではなく
「今日は歩き疲れたなあ。でも楽しかった。」
と、俺の存在を明かさず、当たり障りのないことをつぶやいていた。
そうはいえ、そこに押されるイイね!の数々は、またもや俺の存在を確信させた。
彼女の投稿が俺をして落第させずにすんだ。

 お盆になると、大学の友達も地元に帰って行った。
俺も例にもれず、地元に帰った。
地元に帰って、高校の時の友達と話をしたりするのが楽しみであった。
大学ではどうなのか。
どんなところに住んでいるのか。
バイトは何をしているのか。
浪人している友人のこと。
半年分のたわいもない話が無限に生み出された。
大学生はどれも似たりよったりで、特に傾聴に値する話はないのだが、皆自分の不遇さを証明したり、武勇伝を語りたがった。

当然というか自然にというか、話題は恋愛関係に移った。
「お前彼女できた?」
だいたいこういう風に聞いてくる人間は自分のことを語りたがって仕方がないのだ。
もし仮に俺がいないと言えば
「マジで?」
と言いながらも
「お前は?」
と質問されるのを待っている。

仮に俺がいると言えば
「写真とかないの?可愛い?」
と興味を示すだろう。(そこで、俺は俺の愉快さのために写真を見せてしまうだろう)
しかし、すぐに自分の話に持っていこうとする。
その点において、彼も俺と同じく愉快さのために生きていた。

俺もその愉快さは知っているのと、俺自身もその愉快さを味わいたいので結局、恋バナが盛り上がることになる。
そんなとき、俺には他者の存在など気にならない。
つまり俺と彼しか世界に存在しないのだ。

彼とは大学は違うのでいくらでも話は盛れた。
その多少真実と異なる事実がまるで真実のように感じるとき俺は愉快だった。
これは勿論虚像ではあるが、どこかに存在していた気がする。

皆と話していると、多くの人間が高校時代から変化していることに気が付いた。
勿論見た目はかなり変わっているのだが、どこか自信を持っているようだ。
それはおそらく大学では色々な階層やコミュニティが存在するので、いくつかに存在すれば、どこかでは「イケてる自分」ってやつが探し出せるからだ。
それが「自分探し」という儚い旅なのかはわからないが。
大学では注意する人間もいないのである意味、好き勝手できる。
高校では勉強ができないと先生に注意されるのだ。
ゆえに勉強ができる人間が自信をつける。

勿論、勉強以外のところで自分を「探す」ことは可能なのだが、それを彼らは「受験への逃げ」と曲解する。
そんな風に俺は考えた。

 ずっと地元に帰っていても特にすることが無くなってくるもので、一週間滞在した後、また自分のアパートへと戻ってきた。
俺がいない間、Mは何をしていたのか気になって、聞いてみると案外楽しくやっていたようだ。
既に分かっていたことだが、彼女は俺以外にも愉快さを見出すコミュニティがあり、それぞれでたのしくやっていた。
俺は勿論さびしい思いをさせたくはなかったが、いくばくか寂しさを感じた。
恐らく彼女は俺がいなくても生きていけるのだ。

すると俺の彼女に対する対応も変わってきた。
今までは、こちらも必死に遊びに誘ってきたが、あまりそのようなことをしなくなってきた。
それでも彼女はたいして文句も言わないので、それでいいものだと理解した。
俺も勿論彼女と遊びに行くのはつまらないわけではないが、どうしてもそういうことは得意ではなかった。
ゆえに、このような関係に進展したことを俺は心から喜んだ。
関係が円熟したと思ったのだ。
作品名:悪魔の証明 作家名:ダストボックス