空 —ソラ—
このあとがきを読んだあとーー私は作家になりたいと、心から思った。
一度思いついてみると不思議だった。何で今までそう思わなかったのか、わからなくなってしまうほどに作家になりたいと思った。
作家、という職業を、その人生を選びたいと思った。
その時中学生だった私は、それまで入っていた部活をやめ、文芸部にはいった。
ただ小説を書くだけの、だけどだからこそ面白い部活だった。
小説を書くのは楽しかった。自分とは違う主人公が、自分の作った世界で動き出す。
年を追うごとに、作家の夢は大きくなっていった。
そして十八歳になった時、大学進学を理由に上京したい、と親に打ち明けた。
将来的には作家になりたい、とも。
……父に大反対された。
「作家になんてなれる訳がないだろう!なれたとしても、それで食っていけると思っているのか!」
父は、私が料亭を継いでくれると思っていたらしい。
だから、作家なんかになるより、料亭を継いだ方がよっぽど良い、と言いたいのだろう。
「父さん」
と、その時、それまで黙っていた弟が、突然声を上げた。
「姉さんが継がないなら、俺が継ぐ。
前々から考えてたんだ。でも、俺は体が弱いから、姉さんが継ぐんだと思って、諦めてた。
でも違うなら、俺がここを継ぐ。だからさ、姉さんに、上京させてあげなよ」
弟が、私の方を向いた。
「姉さんは自分の夢を追って。俺は俺で、ここを継いで、守っていくから」
弟がそんな事を考えていたなんて、知らなかった。両親も知らなかったようで、唖然とした顔をしている。
「あ、でも姉さんは世間知らずだからなぁ。もしかしたら、社会の厳しさを理解して、結局戻ってきたりして」
そんな事は無いと思ったし、何となく見下されている様な気もしたけれど、弟なりに、応援してくれているのだと分かった。
或いは、ただ自分が継ぎたいだけかもしれないけれど。
「学費以外は、自分で出すから……っ!お願い!」
母の応援と説得もあり、学費は出してもらえることに決まったのだけれど、父とは疎遠になってしまった。