空 —ソラ—
「お荷物で~す」
こんな時間にと思い時計を見ると、未だ9時前だった。
全然寝ておらずフラフラだった私を、編集部の人達は心配して、できるだけ早く帰らせてくれたのだ。
疲れた体にムチ打ってベッドから這い上がり、スーツのシワを伸ばす(…まあ、大して変わらなかったが)。
玄関まで歩き、はんこを取って口に挟むようにしながら、散らばった荷物を足で入り口から見えない場所に動かした。鍵を開けてながら、はんこを手に持ち直してドアを開ける。
「こちらがお荷物になります。あっ、ハンコはここにお願いしますね。
はい、有難うございました~!」
そんな定型文の様なやりとりに軽く頭を下げて、荷物を受け取る。
何かのカタログで買った高いビールだった。
「あ、冷蔵梱包……」
なんとなく、高級感。……しかし、目が覚めてしまった。
これでは編集部の人々の気遣いが水の泡になってしまった気がする。
んん……シャワーでも浴びるか。
ザアアッという水の音は、嫌いじゃ無かった。
雨の音に、似ているからだろうか。
ーーお風呂から上がって、ビールを冷凍庫から取り出す。
冷蔵梱包だけじゃ物足りなかった冷たさが、冷えてキンキンだ。
プルタブを開けて、グラスに注ぐ。一気に入れると、泡の量がすごいのだけれど、それがまた良い。
父の受け売りで、今や私の癖だ。飲むと、普段のより美味しい様な気がした。
「さすがは、高級ビール」
よく分からないくせに、ちょっとほざいてみる。
「って、うわ、なんか眠く……何これ、あー、フラフラする……」
ベッドに倒れこむ。疲れた体には、酔いがまわるのが早い。
長年帰っていない、懐かしい故郷の景色が、見えた様な気がした——。