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彼は頬を真っ赤に染めて懸命に雪玉を押していた。毛糸で編んだ赤い厚手の手袋をはめていても、指にはほとんど感覚が無かった。その手に白い息を吐きかけ、彼は雪まみれになりながら、雪玉を押し続けた。やがて不格好な雪だるまが出来上がった。頭に底の抜けたバケツをかぶせ、目には石をはめこみ、木の棒で鼻と口を作ると、彼は満足そうにその雪だるまを見つめた。
しかし、その雪だるまは日に日に痩せ細って行き、やがてある朝、ついに彼の目の前で最後の一塊が溶け、水となって地面に吸い込まれていった。その瞬間、彼は春の気配を感じ、心が浮き立つような気持ちになると同時に、去りゆく冬を思い、悲しくなった。彼にとって、春と同じくらい冬は価値あるものだったから。
どんなに雪の少ない冬でも、雪だるまは彼に会いに来てくれた。ときには正月の鏡餅くらいの大きさで、ときには泥で真っ黒になって。けれども、彼が成長するに従って、いつしか雪だるまは彼を訪れなくなっていた。
君はどうして僕を見捨ててしまったんだ。君はいったいどこへ行ってしまったんだ。帰って来てくれ、お願いだから。
彼は心の中で叫んだ。けれども口から出て来たのは、まったく違う言葉だった。
ふん、今さら雪だるまなんて、ガキじゃあるまいし。
彼は自分の言葉に愕然となった。
こんなはずはない、何かの間違いだ。
しかし、相変わらず彼の口はしゃべり続けた。
バカじゃないか、いい歳して雪だるまだなんて。
作品名: 作家名:sirius2014