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12月。そろそろ冬も本番に入っている。
午前2時。彼はその夜も机に向かい、参考書を開いていた。
部屋の中には、彼がノートに鉛筆を走らせる音と、彼の背後にある石油ストーブの上にかけられたやかんの湯が沸騰する音だけが聞こえていた。
机の隅に置かれた、空になったコーヒーカップが、その湯の行方を物語っていた。彼の正面の壁にある棚に置かれたインスタントコーヒーの空きビンに差された2本の赤い、埃をかぶったドライフラワーだけが、わずかにこの殺風景な部屋に色を添えていた。しかし、その寒々とした雰囲気は少しも和らげられていなかった。
彼は我慢しきれなくなったように鉛筆を置いて立ち上がると、ストーブのつまみを調節して炎を小さくし、激しく湯気を吹き上げているやかんを畳の上に下ろした。そのとき、彼はふと窓の外に目をやった。
雲が垂れこめたどんよりとした陰鬱な空から、いつしか雪が降り出していた。雪は小さな街灯の淡い光に照らし出されて、無数の妖精のように空気の中を舞っていた。それはまるで、夢の世界のように幻想的な光景だった。
「雪か・・・」
彼はつぶやいた。
雪。それこそは彼の幼い日々を、鮮明に蘇らせてくれる唯一のものだった。心の奥に封じ込められた記憶を解き放つ、唯一の鍵だった。彼の頭の中には、スイッチを入れられたテレビが突然映像を浮かび上がらせるように、少年時代の風景が現れた。それは、忘れていたのではなく、思い出すことの無かった思い出だった。
彼の心は時の流れを遡った。
作品名: 作家名:sirius2014