小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

クラインガルテンに陽は落ちて

INDEX|19ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

Will you dance?
will you dance?
(踊ってみない? 踊りましょうよ?)
「ポトフ、本当に美味しかった」
「ありがとう。柚木さんと私のコラボですしね」
「あとで携帯のメルアドお教えします」
「どうして?」
「レシピを送ってください」

take a chance on romance
and a big surprise?
(素敵な夢を叶えなきゃ びっくりするくらいのロマンスよ)
「映画ではダンスのあと、どうなるのかしら?」
「男が女にキスしようとして、平手打ちをされます」
「本当?」
「嘘。僕が今思いついたシナリオです」
「コラ!」

 いつまでも曲が終わらなければいいと思った。でも曲は既にエンディングに入っていた。”Will you dance?” の3分10秒は僕にとってあまりにも短かった。曲が終わると、由樹は「お茶、入れますね」と言って、自分から手を離しキッチンに向かった。
やっぱり迷惑だったのかな、と心の中で呟きながら、僕はほんの少し気まずい気持ちになった。由樹が入れてくれたダージリンがちょっぴり苦く感じた。
 時計の針がこんなに速く動くことを僕は恨んだ。もう帰らなきゃいけない時間だってことぐらい分かっている。でも、未練がましい男とも思われたくはない。僕は最後の挨拶をするときが来たと自分で決めた。
「今日はありがとう。じゃあ、お元気で」
「はい、柚木さんも」
 僕はまたお会いしましょうとは言えなかったし、由樹も言わなかった。これでいいんだ、と自分に言い聞かせていた。
 玄関でお別れをし、通路を早足で歩いた。由樹が扉のところから見送ってくれているのは分かっていた。僕は一度だけ振り返り、手を振った。そう、たった一度だけ。
 エントランスを出て家までの帰り道、僕は夜空を見上げた。夏にしては綺麗な星空だった。”Will you dance?”のハバネラのリズムが、まだ頭を駆け巡っている。
 僕は胸の辺りに微かに残る由樹の感触を思い出しながら、我家に向かって自転車を漕いだ。