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文明開花〜櫻座物語〜

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誠一郎は得意げに鼻を鳴らした風雅をみやった。
鈴について教えてもらえるらしい。


「よく聞いていろ。誠一郎はすぐに忘れるからな。一回しかいわないぞ。」

「はいはいはい、わかったよ。ちゃーんと聞くから。な?」

「返事が多いな・・・まぁいい。関心が高いのはいいことだ。」

「どーも。」

「まず・・・鈴っていうのはなこういう風に書くんだ。それで___」


学のない誠一郎にとって、風雅は尊敬する存在でもある。だが教えてもらっているときに悔しくなる。
身分差別さえなければ、金さえあれば自分も寺子屋に通うことができたのに。
そんな邪念がまとわりつくことがある。
風雅が悪いんじゃない。誰も悪くはないんだ。
ただ一人。運命を握る、神という存在を除いては。
キリスト教?そんなの知るか。
そんな本当に居たのかもわからない男を拝めてどうするんだ。
永遠に幸せでいられるのか?誰も泣かない、笑顔あふれる日本国になれるのか。そんなのむりだろ。
だって、神は。

絶対に人間を裏切る。


「____ろう、せい__!誠一郎!」

「うおっ!?」

「何ぼけっとしているんだ!ちゃんと聞け!それとも・・・どこか具合が悪いのか?」


風雅は不安げに顔を覗き込む。つり上がっていた目元も下がり、男とは思えない美しさを見せる。
相変わらず心配症だ。


「いや・・・なんでもねぇよ。すまん、もう一回。」


そうゆっくりと、なだめるように言うと風雅はホッとしたのか、柔らかく微笑んで「仕方がないな」と言って話を再開した。
深く感傷に浸っていたらしい。
無意識に噛んていた唇が空気に触れて痛い。さわってみる。うん、跡は残らなそうだ。
深く息を吸う。
誠一郎は風雅の話を聞き始めた。


「鈴っていうのは”目印”なんだ。」





______ちりん


再度聞こえた鈴の音は虚しくも空へと消えた。



作品名:文明開花〜櫻座物語〜 作家名:夏華