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でんでろ3
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いつか龍になる日まで

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 龍は初夏の街をさまよい歩いた。最近、以前ほど異常気象と騒がなくなった気がする。
 やがて、とぼとぼと歩く龍の目にあるものが映った。靴磨きの少年。今時、珍しい。でも、それだけじゃない。何か変だ。そうだ。半袖の服を着ている。なのに? 両腕が、無い? 確かに無い。でも、それじゃあ、どうやって靴を磨くんだ?
 龍は、もっとよく見ようと少年の方に向かって歩き出した。そのとき、1人の客が少年の前に現れた。少年は、どうするんだろう? すると、少年は、その2本の足で、器用に靴を磨きだした。龍は、少年が靴を磨く、その様を、一挙手一投足を、つぶさに見守った。引きつけられた。魅了された。
少年が靴を磨き終え、客が金を払って帰っていくと、龍は少年に向かって歩き出した。迷いは無かった。そして、自然に問いかけた。好奇心からではなく、ただ、知りたかったのだ。
「君は、なぜ、靴磨きをやっているの? 他の、そう、もっと他の、君のハンデが響かない、君にもっと有利な仕事がいくらでもあるだろうに」
「そうだね。もっと、他の仕事もあるよね。おじさんは龍だね。おじさんは龍にしかできない仕事をしているの?」
龍は答えに詰まった。
「僕はね。この仕事が好きさ。何より、お客さんが喜んでくれる。僕にしかできない仕事だよ」
少年は、まっすぐに龍の目を見つめた。
「おじさん。おじさんにしかできないことも、案外、おじさんにはできないと思っていることかもしれないよ」
その言葉は、龍の心に、ずしりと届いた。
「ば、ばか。ガキが生、言ってんじゃねえ」
龍は、きびすを返すとスタスタと歩き出した。しかし、その実、軽く膝が震えるのを感じていた。

 俺にできないこと。俺にできなかったこと。俺のやりたかったこと。明美を幸せに、生まれてくる子を幸せに、みんなを幸せに、みんなを笑顔に、そう、みんなを笑顔に!
 そのとき、龍の目に1枚のポスターが目に入った。
「『お笑いスターだ誕生だ』in○○市 出場者募集!」
それは、お笑い芸人の登竜門と呼ばれる番組の収録が、この街で行われるという告知だった。
 やる! やってやる!
 どこへともなく駆け出す龍であった。