いつか龍になる日まで
安アパートの1室で、男が2人、女が1人、向かい合ってモジモジと正座している図は、ちょっと変だった。しかも、大の男2人が並んで座り、それに女が向き合っているのも、何か変。まぁ、男の片方は龍なのだけど。
「で、何ですって?」
朱美が厳しい口調で言う。
「……だ、だからね。俺は、この田上とコンビを組んで、お笑いを目指す。……と、言ってるんですけど?」
「はぁ? あんた、まっとうな職について定期収入ってやつを稼いでくれるんじゃなかったの?」
「それは、そうだけど。でも、子供は出来てなかった訳だし……」
「あっ、そーう。そーなんだー。ふーん。へー。ほー」
「あっ、いやっ、だから、そういうんじゃなくて……。バイトはします。ガンガンします。定期収入だって目指します。本当に子供が生まれて来るころには、定期収入を勝ち取っています。た・だ・し、その為にもお笑いを目指します。お笑いで生計を立てて見せます」
「『お笑いで生計を立てます』だぁ? そんな、甘っちょろいこと考えてんの?」
「ほんの一握りでも、夢をかなえた人たちが居るのなら、俺は目指したい」
龍は真っ直ぐな目で朱美を見た。それは、朱美が初めて見る決意のこもった眼差しだった。
「本気なの?」
「ああ」
「途中で投げ出したら、許さないからね」
朱美も龍の目を真っ直ぐ見つめて言った、
「田上さん。こんな奴ですけど、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
3人そろって深々とお辞儀をした。
「それで、コンビ名は決めたの?」
「ああ、そういえば、まだやったな」
「じゃあ、3人の夢が叶うように、『朱龍田夢叶』」
「入ってくんな、朱美。だいたい何て読むんだ?」
「冗談よ。じゃあ、くりぃむしちゅーに対抗して『満漢全席』」
「いや、満漢全席は物凄い種類の料理が出てくるってことで、1つの料理じゃないからね」
「もー、うるさいなぁ。じゃあ、どんなのがいいのよ」
「……2人の名前にちなんだのに、せぇへんか?」
ここまで、黙って聞いていた田上が、おもむろに口を開いた。
「どんなの?」
「うーん、龍之介の『りゅう』と田上の『た』を入れて、『竜雷太』」
「別人になってるぞ、おいっ!」
「……『龍』と『田上』で『竜田揚げ』なんて、どう?」
ふいに朱美が言った。途端に、龍と田上の顔も輝いた。
「それだ!」
「それや!」
「それで行こう」
作品名:いつか龍になる日まで 作家名:でんでろ3