忘れていた風景
「頂きます」
「……」
「あっ、美味しいコーヒーだね」
「そうね。本当に。ふたりだから、美味しいのかしらね」
「……さて、問題の絵を、見せて頂きましょうか」
「云ったけど、サインがまるで違うの。見る?」
「拝見しましょうか。
その前に、私の絵を見てもらいますか」
「はい。お願いします」
中野は持って来た薄い段ボールの箱の、縛ってある紐を解いた。彼は取りだした絵を、壁際に持って行って置いた。
安曇野で描いてきたその絵の右下には「hisasi kurihara」というサインが書かれていた。
「えっ!どういうこと?」美里は身を乗り出して、眼を見開いた。彼女は非常に驚いた顔になった。
「画号なんだ」
「あの絵と同じサイン!画号?そうなの?驚いたわ」