忘れていた風景
平日の毎朝、早朝の喫茶店で、結婚相手への愚痴をいつも聞いてやっていた。
彼女はその一年後に退職した。六号の風景画を、中野は贈った。彼女はそのとき、二十三歳だった。
その後間もなく、或る寺院で描いていたとき、全員スケッチブックを持った若者たちに囲まれたことがあった。或るリクリエーションサークルのメンバーたちだった。彼らに絵の描き方を半年くらい教えたような気がする。
或る観光地の公園へ十人程で風景を描きに行ったとき、中野だけ百人くらいの観光客に囲まれたことを思い出した。この前は美里だけが観光客に囲まれていた。それは次元が低いことなのだが、中野はやや屈辱的な気持ちだったことは事実だった。
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