忘れていた風景
丘陵の尾根を行く道になると、右手に遠く美しい山々が見えた。その美しさを絵にしたいと、中野は思っている。
手前に低く、新興の工業団地という雰囲気の街並みが広がっていた。
「急に云うけど……」
と、美里。
「どんなこと?」
「お父さんの絵をサイトで見たときね、自分のアトリエにある古い絵に、似てると思ったの」
「お母さんが描いた絵だね」
美里は横に首を振った。
「母に、これはお父さんが描いた絵でしょって、訊いたことがあるのよ」
「お母さんが描いたものでは、なかったのかな?」
「それは一見して違うって、わかったから……」
「お父さんは遠くの山を描くのが好きだったでしょって云ったら、母はその絵を見ながら眼を潤ませてた」
「じゃあ、無言で肯定したんだね」
「そうよ。わたしは確信してる。あの絵はわたしの父の作品だわ」