忘れていた風景
午後二時に近い時刻になっていた。漸く一軒の寿司屋を発見した。二人はそこに入ってみたが、客の姿はなかった。
「握りの上を二人前お願いします」
と、美里が笑顔で店員の中年女性に云った。その直後にふた組の客が入ってきた。初老のカップルと、小学生らしい男の子を含む三人家族だった。
そのふた組は店の中年女性と顔なじみらしく、それぞれ誰が出産したとか、誰が入院したなどと、親し気に話していた。
二十分程経った頃、二番目に入った客に寿司が出された。間もなく三番目に入った客にも、
注文したものが出された。
「お姉さん!こっちが最初に注文したんですけど」
と、美里が大きな声で云った。
「今、やってますから」
と、奥から男の声が聞こえた。
それから十分後に、注文したものが中野たちのテーブルにきた。
「ご主人を呼んでください」
そう、云ったのは中野である。即、四十代後半と思われる白衣の男が慌てた様子で出て来た。