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忘れていた風景

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        *

 渋滞は紅葉に囲まれた下りの道から始まった。その中でふたりは尻取り遊びをした。
それに飽きると美里は茶色のぬいぐるみを後部座席から取って中野に渡した。
「ギズモちゃんが運転したいって」
中野はぬいぐるみの両手がハンドルを持っているような形に持ち、裏声で云った。
「映画の撮影以来だからね、運転のしかたを忘れたよ」
ギズモというのは、昔の映画「グレムリン」の主役だった。
「ギズモちゃん。足が短いからアクセルに届いてないわよ」
「オートマチックはクリープで動くんだよ」
 と、中野は腹話術師のようだ。対向車のドライバーが笑いながら通り過ぎた。
 山から下りて平らな道になった。更にゆっくりと長時間動き、漸く高速道路に入った。
だが、渋滞解消の兆しは見えない。
「アイドリング・ストップ宣言」というステッカーを貼ったトラックを、暫く前に中野は見た。前を行くトラックも同じステッカーを貼った別の車だと思ったが、よく見ると違っていた。
作品名:忘れていた風景 作家名:マナーモード