忘れていた風景
「ワイン、持ってきましょうか。どっちがいいのかしら」
「ワイン?……ああ、じゃあ、今度は赤にしましょうか。でも、悪いから自分で持ってきますよ」
中野は料理が並べられているところへ行ってみたが、ワインがどこにあるのか判らなかった。
「たくちゃん、こっち、こっち」
ミーちゃんが中野に向かって手招きしていた。彼は笑顔の彼女の姿を見てドキッとした。
水色のワンピースだったからである。
ミーちゃんの傍のテーブルの上には、蛇口のついた二つの樽と、ワイングラスがたくさん積み上げてあった。
「カリスマさんは、絵はお描きになりますか」
席に戻ると中野は訊いた。
「おかきは食べますけど、絵はお描きになりません」
それを耳にした何人かは笑った。
「神風さんはお描きになるのよね」
須永さんが云った。
「両方です。絵もおかきも好きです」
「わたしだけ取り残された感じ。カノンです。たくちゃんの絵に恋をしちゃってます」
中野はひと月前、自分の絵を写真に撮ってサイトで公開した。
ショートヘアのせいか、キュートな感じだった。身体が引き締まっているが、年齢は四十代だろうか。