忘れていた風景
「美大生?」
「いいえ。あなたは?」
「僕も、独学で絵を描いてます。ここで油を描いたり、石膏デッサンもやってます」
「わたしは、主に風景を油絵で描いたりしています」
「そうですか。じゃあ、一緒に今度、描きに行きませんか?」
「そうですね。そうして頂けたら嬉しい……」
困惑と喜びをとを、その表情は同時に語っているようだった。
「明日の日曜日はどうですか?僕も風景が一番好きなんです」
中野は嬉しさを精いっぱいの笑顔で示した。
「そうなんですか?どこへ描きに行きますか?」
そのときが、里子の本当の笑顔を中野が見た最初のときだったかも知れなかった。
「たくちゃん。お料理持ってきました」
ミーちゃんだった。追憶から現実に引き戻された中野は、驚きながら笑った。
「どうしたんですか?深刻な顔、してましたよ」
ミーちゃんは微笑していた。
「そうですか?昔の愉しい想い出に浸っていたんですけどね」
「お邪魔でした?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」