忘れていた風景
「色だけじゃない。イチョウは緑のときから黄色の色素を持ってるんだよ。秋になると緑の色素が分解して黄色が表面化するわけさ」
「そうなの?モミジの場合は?」
「緑のときのモミジには紅い色素が全くないんだよ。昼間温かくて夜にぐっと冷えると、
アントシアニンという色素ができて、それで紅くなるというわけ」
美里は驚きと喜びを同時にその表情に見せた。
「わあ。植物博士ね」
「ついでに、桜は秋に咲いて驚かせる場合があるだろう」
「たまにそういうニュースを聞くわね」
「桜のつぼみはね、前の年の夏にはできてるんだよ。アブシン酸という物質が開花を抑制して翌年の春まで開花させないようにしているわけ。ところが、天候不順の年にその物質ができないと、秋に咲いてしまってニュースになるんだね」
「いろいろ知ってるのね」
「のぼせて倒れたら大変だ。先に出るよ」