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忘れていた風景

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 湖畔には木々に囲まれた、別荘跡も幾つか在った。しかし、ふたりともそこで絵を描きたいという
気持ちにはならなかった。
 更に車を走らせた。美しい湿原を囲むように、国道沿いには、カラマツ、ミズナラ、ハルニレ、ズミ、シラカンバなどの樹木が茂っている。それぞれの樹木の色合いが微妙に異なり、眺めているだけで満足してしまう。この秋の饒舌な美しさに、ふたりは感動していた。
 その奥には小さな湖があった。こちらも火山が噴火したときの溶岩流によって川がせき止められて形成されたもののようだ。
標高千四百七十八メートルの場所にできたせき止め湖は、歩いても周囲が三キロなので、
一時間で一周できるらしい。紅葉が湖面に映り、美しさを際立たせていた。湖に面して温泉もあった。
 この湖が気に入ったふたりは駐車場の近くの湖畔にイーゼルを立て、ふたりとも申し合わせたように十号のキャンバスを固定した。
「しかし、ミーちゃんも私も、芝居が好きなのかな?」
「映画は好きだけど、お芝居はあんまり……」
「でも、始めるとのりやすいね」
「たくちゃんものせられやすいのね」
「そうかな?考えてみれば、大昔に素人芝居を演ったことがあるよ」
作品名:忘れていた風景 作家名:マナーモード