忘れていた風景
「遊覧船に乗って湖上めぐりもいいでしょうね」
「夏だったら、湖畔でキャンプしたら愉しいだろうね」
湖畔にノスタルジックな洋館のレストランがあった。かつて外国人の別荘として建てられたもので、年月を経て守られてきた歴史の深みが漂う雰囲気の重厚なレンガ造りである。美里の要望でそこに寄って早めの昼食を摂ることになった。
「ここは、異国情緒溢れる空間だね。今にも舞踏会が始まりそうな貴族的雰囲気じゃないか」
「それに、お父様。タンシチューもおいしいし、このカニクリームコロッケは絶品ですわ」
終始笑顔の大満足の昼食が済むと、ふたりは手を繋いで駐車場まで歩いて行った。
「ワインも飲みたかったわね」
「遠慮しないで飲めば良かったのに」
「お父様がお倒れになったとき,わたしが運転しますわ。だから我慢していましたのよ」
「そうであったか娘よ。だが、私はそう簡単には倒れたりはせぬぞ。お前が幸せになるときまではな」
「いつまでもお元気でいらしてね。お父様」