忘れていた風景
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一般道路を暫く走ってから、高速道路に入った。時刻は午前九時を過ぎたばかり。
「どこに着くのか、少しだけ見えてきた」
「どうかな?意外なところかも」
「そうだ。最終的な場所を決めるのは、つまり、モチーフを決めるのはミーちゃんに任せるよ」
「同じ場所で描きたいの?」
「別々だと寂しいじゃん」
「寂しがり屋なのかな?お父さん」
沿道の里山に紅や黄色が、秋の陽射しの中で輝き始めていた。
紅葉スポットを代表するその坂道はコース全体が鮮やかに彩られていた。余りにも見事な場所では、車の速度を落としてその造形美を堪能した。
「あっ!ロープウェイよ!あれに乗ると、きれいな山がたくさん見えるし、滝と湖が一望できて絶景なのよ」
交通渋滞は噂ほどではなかった。
周囲約二十五キロ、最大水深百六十三メートルと云われる大きな湖が見えて来た。
「この湖は二万年前だったかな、大昔に山が噴火して、流れ出した溶岩で渓谷がせき止められてできたらしいよ。ヒメマスとか、ニジマスを釣ることができるらしいね。やってみたいなぁ」