忘れていた風景
「猫だったらこっちから寄って行くけどね。適当に置いていいのかな?」
「どうぞ。わたしも猫が好き。やっぱり親子ね」
美里は嬉しそうに云った。
絵具箱、イーゼル、キャンバスのバッグをあいているところに置いた。
「だけど、血液型は?」
「敬遠されることが多い血液型だよ」
「じゃあ、同じかも。凝り性ということは?」
「そうかも……さあ、続きは車の中で。出発してください」
「わかりました。参りましょう」
美里が先に助手席に入り、次いで中野が運転席に入った。ふたりともすぐにシートベルトを装着した。
中野は差し込んだままのキイをまわした。美里は失礼かも知れないけど、と云い、シフトレバーやサイドブレーキ、スイッチ類の操作方法を、簡単に説明した。
タクシーではない車なのでやや緊張し、中野は慎重に後方確認をして、ゆっくりと車を発進させた。