忘れていた風景
「出来が悪い生徒だと思うけどね、愉しくデートしてよ。じゃあね」
*
中野は事務所に戻り、身体を洗ってシャワーを浴び、それから自転車に乗って帰宅した。すぐにパソコンの電源を入れた。コーヒーを淹れている間にパソコンは立ちあがっていた。
「たくちゃんさんにミニメールが1件届いています!」
開けてみると美里からだった。一緒にテーマパークへ行ってから、五日目だと思った。
中野は身体の奥に熱いものを感じた。
「お父さん。おはようございます。明日はお天気がいいらしいので、一緒に紅葉ツアーしましょ。あっ!いいこと思いついたわ。油絵を描きに行きましょう。明日と明後日はお休みでしょ。誰かとデートじゃなかったら、付き合ってください。 娘より」
中野はコーヒーを飲みながらそれを読んだ。明日油絵を描けば五箇月振りということになると思った。