忘れていた風景
「いやあ、恐ろしく美味いね、これは。ところで、あの絵はいつ持って行けばいいのかな」
「昼間頑張ったからビールおいしいでしょう。本当はなるべく早く持ってきて欲しいのよ。でもね、その前にやっておきたいことがあるの」
「何をしておきたいのかな?」
「ちょっと大変なことなの。もう少し経ったら持ってきてください」
「大変なことって何かな。気になるね……まあ、生ものじゃないんだし、急ぐ必要もないけど……」
「ごめんなさいね。欲しいと云ったのはわたしなのに本当は今すぐにでももらいに行きたいけど……」
「私のところに来る?駄目だな。掃除しないとな。しかし、ご馳走になってばかりで気が引けるねぇ」
「あんなにすてきな絵をもらえるのよ。もっとご馳走しないとばちが当たるわ」
「太らせて食べても、美味しくないぞ」
「ばかね。親子じゃないの」
「そうか、まだ親子ごっこは続いていたのか」
間もなくふたりはその店から出た。その近くの雑踏の中で別れてそれぞれの住まいへ戻ることになった。